日本酒ものがたり | 飯沼本家

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日本酒ものがたり
第四話 3.11に想う

酒造り基礎知識

604eb0f3-a52ac24b前回のコラムから大分時間が経ってしまった。日々何をテーマにするか考えていたがなかなか見つからない。思うことはたくさんあるのだが、それらは日々の生活の中で霧のように消えてしまうものばかりだ。そうこうしているうちに3月11日を迎えた。10年前、日本中を震撼させた東日本大震災の日だ。午後2時46分、亡くなられた方々に手を合わせた。


この10年、大震災による余震を含め、気候変動による大雨や台風の災害が多発した。そして昨年よりのコロナ禍。100年分の災害がこの10年で一気に来た感じだ。世の中では大きく「価値観」が変わった、と言われている。確かにテレワークによって仕事の仕方が変わり、非接触が励行され、生活の常識は驚くほど変わった。震災後繰り返し言われた「絆」という言葉はどこへ行ったのだろう、と思うほど人と人との繋がりが希薄になったように感じるのは私だろうか。


数年前、家の整理をしているとき古い文書がたくさん見つかった。商家にふさわしく、売上の数字の羅列が多かったその中に、11代当主、飯沼治右衛門(幼名喜太郎)の遺言書が見つかった。誰に何を、などという下世話な話ではなく、自身の葬式についての記載だった。


「葬式の際来家する近隣、周辺及びその他の弔問客について」



  • 当家は酒造家である。酒の振る舞いに制限はしてはいけない。弔問客には呑みたいだけ飲んでいただきなさい。

  • 酩酊して腰がたたない様になったら丁寧に介抱すること。

  • 嘔吐するもの、粗相をするものもいるかもしれないが、丁寧に、責任をもって家までお送りするように。


おおよそこんな内容である。


今、価値観が変わっただの、何が変わっただのと言われているが、人間の本当の優しさ、本当の礼儀という決して変わらない「価値」をこの遺言書に垣間見た気がした。


この先、表面上の変化は多々めぐってくることだろうが、「人間としての価値」は決して変わることのないものだと気付かされ、改めて先達の大きさを実感した瞬間だった。


今後何があろうと、この優しさと気遣いは、先人の教えとして大事に心がけていきたいと思う。


 


written by イイヌマ ミキコ


 


 

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